2024.10.24

平安時代の人の怒り方も、意外と現代とそこまで変わらないかも、という話

現在、共催展「とっとりのお宝おひろめ」を開催しています。

4校-R6とっとりのお宝_チラシ-1

本展は鳥取県主催の展覧会で、昨年度に新たに指定された鳥取県指定保護文化財を展示し、紹介する展覧会です。

今年は、三徳山三仏寺所蔵の「男神騎馬像(勝手権現)」をはじめとする神像類、手漉き和紙の保持者・長谷川憲人さんの関係資料(作品類)、「名和神社文書」などを展示しています。

展示資料の三徳山三佛寺所蔵の「神像」は10躯の神像を指定したもので、平安時代~鎌倉時代、室町時代に造られた貴重な像です。

 


平安時代の神像が新たに指定されたということで、今回はNHK大河ドラマで藤原道長と紫式部が主人公となっている時代の史料から見つけた話を紹介します。

※東京大学史料編纂所編『大日本古記録』より引用


この史料は、藤原実資の日記「小右記」の長和5年(1016)4月8日条です。

藤原実資もドラマに出ています。トリオで活動されている芸人さんが演じている、道長の理解者のようなライバルのような立ち位置の人です。

 

この日、内裏では大嘗祭を執り行うにあたっての担当者を決定する日でした。その時の行事の責任者(検校)は藤原斉信と藤原教通、源道方などに決まり、その下で実務にあたる行事役も決定しました。
朝廷の実務担当者は予め順番が決められており、このとき、本来であれば今回の大嘗祭で行事弁(行事役にあたる弁官)を勤めるのは右中弁の藤原定頼でした。
しかし、道長は定頼ではなくその部下に担当させるように命じました。この時、藤原定頼について語ったのが下記の部分です。

 


「定賴才能太賢、然而緩怠無極、如博雅者、(定賴は才能は素晴らしい。しかし怠け者であること限りない。博雅のようなやつだ)」


 

この「博雅」というのは、源博雅のことです。
夢枕獏さんの小説をはじめとする安倍晴明を主人公にしたマンガやドラマなどを見ている人には馴染みのある人だと思います。
博雅は物語では晴明と共に行動している人物で、例えるならばアーサー・ヘイスティングズ(アガサ・クリスティの小説に登場するエルキュール・ポワロの友人)のような立場の人です。
物語の博雅はどこか抜けているけど憎めないやつ、みたいな描かれ方だと思いますが、現実の博雅は「馬鹿者」として評判の人物だったようです。

道長は定頼を叱責するにあたって、「いい加減なことこの上ない!博雅のようだ!(緩怠無極、如博雅)」と言っています。
それに対して、それを聞いた実資は、博雅のことを「博雅の如きは文筆・管絃者なり。ただし、天下懈怠の白物(馬鹿者、しれもの)なり」と日記に付け加えています。
つまり、史実としての博雅は、文才があって楽器も上手いけど天下一の怠け者として記憶されていたようです。

 

「馬鹿者」とまでは言われませんが、この時期の公卿で仕事が出来ない人として有名なのが藤原顕光です。
彼は藤原道長と同じ藤原北家九条流の藤原兼通の子です。兼通は道長の父・兼家の兄弟で兼家と出世争いをしてるほど権勢を誇りますが、のちに兼家が復権し、顕光が跡を継ぐころには顕光自身は道長が引退してことで左大臣まで昇るものの、政治的な主流は道長・頼通へ完全に奪われてしまっています。

 

顕光は三条天皇の譲位の際に、道長をはじめとする公卿達の心配を他所にみずから儀式の担当者を名乗り出ますが、儀式の進行のミスや失態を重ね、公卿たちは儀式の場を出てすぐに大笑いしたほどだったようです(「卿相出壁後嘲笑」)。

これに対して実資は、

 


「今日作法前後倒錯、聊記其事、筆毫可刓、只是略記(今日の作法は前後の順番がめちゃくちゃだ。これをいちいち記すには筆がすり減ってしまう。細かいことは省略する。)」


 

と書き記しています。

また道長は、

 


「顕光にやらせるのに不安があったので反対したが、それを察しない顕光は行事の主導を強行したのに、失態が多く公卿たちはあざ笑っていた。非常に愚かしいことこの上ない(依有事忌、頗示気色、不覚其由、強以行之、依多失儀、為諸卿被咲、至愚之又至愚也)」


 

と言って嘆いています。

顕光は家柄が良く身分は高くなりますが、仕事が出来なかったことが分かります。
ドラマでは人の良いおじさん風ですが、実は執念深い人のようで、藤原実資に朝儀の間違いを指摘された逆恨みで実資を呪詛しています。
それ以外にも顕光本人とその娘が道長を呪詛しており、さらには死後に怨霊となったとして「悪霊左府」などと呼ばれ恐れられています。

 

ドラマでこれらのシーンが出てくるかは分かりませんが(多分ない)、あの道長が怒り、そしてあの実資がそれを聞いて日記を書いていると思ったら、ちょっと面白い資料だったので紹介してみました。