2019.8.7

鳥取東照宮神域のモミ

鳥取東照宮が勧請された慶安年間頃に植栽されたスギ(杉)が鳥取東照宮の拝殿横に巨木として現存することを以前紹介しましたが(2018.5.4.「新緑の樗谿 杉の巨木」)、東照宮の境内周辺には同じ常緑針葉樹のモミ(樅)の古木も多く残っています。一般に日本海側はモミが少ないといわれていますが、鳥取東照宮の社叢林には幹回り2.5メートル以上のモミの大径木がかなり存在します。

 

従来の研究では、樗谿の社叢に見られるスダジイとモミの混交林は、貴重な自然林であると考えられていたようですが(宮脇昭編著『日本植生誌 中国』1983年ほか)、近年では樹木医の前田雄一氏を中心とする研究チームにより、社叢林のモミの生育実態、県内各地のモミの分布状況が詳細に調査され新たな見解が報告されています(註1)。その報告では鳥取県内のモミは「集落及び神社・寺から1㎞未満の範囲にすべてのモミが収まり、1㎞以上離れた場所では確認できなかった」といいます。モミは人間社会との繋がりが深い樹種であるとされ、「鳥取市の貴重な自然林といわれるモミ大径木群は人為の影響下で生育したもの」と結論付けられています。

 

前田氏の話では調査したモミの樹齢は概ね150~170年であるといいます。2007年に当館と鳥取大学(佐野淳之研究室)が共同で調査した東照宮神域のモミも146年でした(DBH:胸高直径73.5㎝の大径木)。東照宮神域のモミも人為的に江戸後期から幕末期頃に植栽された可能性が高いと理解されそうです。鳥取藩政資料や東照宮別当寺大雲院資料には、東照宮にモミを植栽したとする記録は今のところ見ることは出来ませんが、古文書に出てこない歴史が自然分野の研究からわかるのです。前田氏らの報告の最後には、「(鳥取県下のモミは)主として依代や、優れた樹形を生かした修景的な意味合いが考えられる。今後は、文書資料調査等の人文的なアプローチから鳥取県内の神社・寺、及び集落近くにモミの多い要因について検討する必要がある」と締め括られています。鳥取藩では藩が管理する御建山(直轄林)の境界にモミらしき樹形の樹木を植えていることが江戸末期の御建山絵図などからうかがえるのですが、150年余り昔、東照宮神域などになぜモミが植栽されたのか、分野を越えた連携から地域の歴史的環境が解明できればと思います。(伊藤康晴)

(註1)

「鳥取県におけるモミの分布」前田雄一(樹木医)・河合隆行(鳥取大学)・矢部浩(鳥取県林業試験場)・小山敢(鳥取県林業試験場)・土屋竜太(明治大学)、『樹木医学研究』第23巻1号所収、2019年

 

 

 

【メモ】

1981年鳥取市指定の天然記念物「樗谿神社社叢」を構成する樗谿神社の社号は、2011年に鳥取東照宮と改号されたが、天然記念物は従来の名称のままとなっている。